
2026.6.11
【対談】 呉市「音戸の舟唄」の挑戦!“唄う”以外のかたちで次世代へ継承(伝統文化親子教室(地域展開型))
「日本三大舟唄」のひとつと言われる民謡「音戸の舟唄」。
広島県呉市の無形民俗文化財に指定されていますが、関係者の高齢化が進み、次世代への継承が大きな課題となっています。
そんな中、2025年度に行われたのが、文化庁「令和7年度伝統文化親子教室(地域展開型)」(※)を活用したイベント事業です。
主催は、呉市役所文化スポーツ部文化振興課に事務局を構える「音戸の舟唄保存・継承実行委員会」。
そして、イベントの運営を、株式会社あっぱれが担っています。
本イベントでは、子どもたちが「唄う」以外の形で民謡と接点を持てる、新しいプログラムを設計しました。
その成果や、取り組む中で見えた課題・展望について、呉市文化振興課の荒平悠さん(グループリーダー)と小西文さん、そしてあっぱれの文化観光コーディネーター・杉崎に聴きました。
※伝統文化親子教室(地域展開型)……地方公共団体などが中心となり、伝統文化の体験・習得の機会を提供する補助事業
イベントHP:
https://ondo-funauta.com/event/index.html
音戸の舟唄とは?

音戸町
平清盛が切り開いたとされる、呉市の警固屋(けごや)~倉橋島間にある海峡「音戸の瀬戸」。
ここは、船の交通の要衝でしたが、流れが急で、海峡をわたる際には、常に危険を伴いました。
そんな急流と格闘するなかで、船頭たちが唄い継いできたのが、「音戸の舟唄」です。
昭和30年代、地元出身の高山訓昌氏が節回しをまとめ、テレビ・ラジオを通じて広く知られるようになりました。
その後、昭和54年には音戸町(現・呉市)の無形民俗文化財に指定。2008年以降は「音戸の舟唄全国大会」、2024年からは「音戸の舟唄発表会」が開催されています。
また、音戸町内では「音戸の舟唄保存会」が設立され、入門講座や小学生向け授業、イベント出演など、さまざまな活動をしています。
では、続いて、本事業の対談を紹介します。
「唄い手を増やす」ことの限界

(右)呉市文化振興課 荒平さん、(中)小西さん、(左)あっぱれ 杉崎 (下)聞き手:溝端
ー音戸の舟唄保存会では、入門講座など、さまざまな活動をされています。
そんな中、今回新たに「地域展開型」の補助を使って事業を行った経緯は?
荒平:保存会は現在、40名ほどの会員が活動を続けています。
ただ、メンバーの多くは70代以上で、「若手の継承者を増やさないと、続かない」という危機感がありました。
「唄を唄う」というのは、恥ずかしがる人も多く、それなりにハードルがあります。私は約10年間、舟唄に関わってきているのですが、これまでの取り組みに限界を感じていました。
そんな中、あっぱれの代表・山本さんが、呉市の文化財保存活用地域計画推進協議会の委員を務められていたので、「もう少し、若い人たちとの接点を広げる方法はないか」と相談。
今回の事業につながった、という形です。
大好評の乗船イベント

乗船イベントの様子
ー事業では、具体的にどんなことをしたんですか?
杉崎:今回、具体的には、
・乗船体験イベント(2025年11月2日開催)
・音戸の舟唄教室(全5回・2026年1~2月に開催)
という2つの取り組みを実施しています。
体制的には、あっぱれが運営事務局を担い、イベント運営・MC対応などを一般社団法人My Japan(代表理事・三村理紗氏)に委託しています。
このほか、「伝統文化親子教室(地域展開型)」には含まれていませんが、SNSの動画コンテストも同時に開催しています。
ー乗船イベントは、どういう経緯で企画したんですか?
杉崎:もともと、最初から教室スタイルで始めるより、子どもたちがワクワクできるような体験から入った方がいいよね、という話が出ていました。
協議を進める中で、「舟唄は、もともと舟の上で唄われていたんだから、乗船体験を入れたら」というアイデアが出てきました。
舟のイベントだと、安全管理に悩ましい面があります。ただ、クルーズ船を手配すればなんとかできそう、ということで、こういう形になりました。
イベント当日は、
・まず、音戸町内の文化会館で舟唄のレクチャー
・続いて、まち歩きしながら音戸の歴史学習
・最後に乗船体験、
という形で、プログラムを設計しました。

乗船イベント時に行われたまち歩き
ー実際にやってみて、手ごたえはどうでしたか?
小西:「音戸町の歴史と、舟唄を一体で学べる」このような構成というのが、そもそも初めての試みだったのでは、と思います。
舟唄だけを単体で体験しても、なぜこの地でこの唄が生まれたのかが伝わりにくい。そこを、実際に歩いて、歴史を知り、舟唄を聴く。やってみて、とても良かったと思いました。
今回、定員25名が満席となりましたが、子どもたちもずっと笑顔で、保護者の方々も盛り上がってましたね。
ーまち歩きを組み込むことは、あっぱれで考えたんでしょうか?
杉崎:はい。ガイドの石飛さんや、My Japanの三村さんとも協議する中で、「やっぱり文化的背景もしっかり伝えたいよね」「そういう体験ができると、没入感も高められそう」という話が出て、意識的に組み込みました。
当日は、お二人がガイドを担ってくれたんですが、私自身は、車通りの多い道もあって、安全管理に必死でした(苦笑)。

船の上から
荒平:音戸の舟唄は、もともと船の上で唄われていたものです。歌詞の中にも波や潮流を表すフレーズが随所に出てきます。
けれども、音戸の瀬戸を渡る船が、数年前に廃止されてしまって、地元の人でも船で瀬戸を通る機会がなくなっていたんです。
だからこそ、今回のクルーズは特別な体験になりました。
杉崎:また、音戸大橋をはじめとする景色を、船の上から眺めながら写真を撮っている保護者の方も多かったですね。
普段は通れない角度から絶景が見られる。そういう部分でも参加してよかった、という声をたくさんいただきました。
集客の苦労と、新しい発見

レインスティック作りのワークショップ
ー続いて、唄の教室を全5回で実施してますね。こちらは、どうでしたか?
杉崎:教室については、参加者を集めるのにとても苦労しました。
乗船イベントは反応が良かったので「教室も人が来るだろう」と思っていたのですが……。
唄の練習を5回連続で来るというのは、ハードルが高かったのかもしれません。
小西:私たちは当初、「音戸町以外の市民にも、舟唄を広めたい」という思いがありました。
それで、町外を優先して募集をかけ、呉市役所周辺にも会場を設けようとしていたんですが、町外の方が通ってくれるのは難しかったですね……。
最終的に会場を音戸町内に絞り、小学校とも連携し、参加しやすい日程で組み直しました。
杉崎:呉市の広報にも載せて、チラシも何度も作り直して、SNSの広告も回して、やれることは一通りやりました。
最終回となった2月14日には、20人近くが参加してくれたのですが、そのほかの回は、1回あたり3〜6名くらいの参加にとどまり、悔しかったですね。

杉崎:一方で、内容面では、手ごたえを感じた点もありました。
特に好評だったのが、「レインスティック」を自作するワークショップです。
レインスティックとは、中に入れたビーズや砂が波のような音を立てる楽器です。
舟唄を唄う時に使われる波の音を楽器で表現するという発想で、子どもたちが自分で材料を選び、外側に絵を描いて仕上げるワークショップとして取り入れました。
荒平:これ、保存会さんにも、とても評判がよくて。
実は、保存会の方も事前に、竹や水の配管などを使って個性的な楽器をつくって、持ってきてくれるなど、乗り気になってくれ、ワークショップも盛り上がりました。
「唄う以外での接点」が自然に生まれた瞬間でしたね。
保存会の方からは「こういうワークショップは初めてだった。これからも小学校での活動に取り入れていきたい」という声が出て、それがとても嬉しかったです。
小西:あと、会場は音戸町内にあるカフェ・雑貨店「天仁庵」の2階にある畳の広間で行いました。
ここでやると、保存会メンバーと子どもたちの距離が近くて、仲良くなれたのもよかったですね。

最終回の様子
杉崎:最終回(第5回)は船の上で発表会形式で実施しました。
5回皆勤の子ども5名には保存会から修了認定状を手渡し、「あなたは音戸の舟唄の伝道師です」というメッセージを贈りました。
荒平:このとき、大人も含めてマイクが回ってきて、恥ずかしがりながらも唄う場面が続きました。最終的には宴会みたいな雰囲気になって(笑)。
杉崎:僕も唄いました(笑)
荒平:大人も子どもも皆で楽しんでいて、本当によかったですね。
文化の継承って、こういうことなのかな、と感じられる時間でした。
あっぱれ支援の評価
ーあっぱれの支援はどうでしたか? 批判も含め、忌憚ないご意見をお伺いしたいのですが。
小西:杉崎さんがとてもフレンドリーで、保存会の方々とも、すごくいい関係を作ってくださいました。
おかげで、保存会からも積極的にいろいろな意見が出てきて、スムーズに進められました。
ガイドさんの手配など、人脈を生かしたサポートも、とても助かりました。
荒平:一方で、課題として感じたのは、あっぱれに対して、地元側が「お任せ」になりすぎてしまった面があったことです。
継承を本当に地域に根づかせるには、地元側がもっと主体的に動いたほうがいいのでは、という点が反省点です。
今後の取り組み
ー本事業はいったん終了となっています。
今後、「音戸の舟唄」を受け継いでいくために、取り組みたいとお考えのことがあったら、教えてください。
小西:今回の事業を通じて気づいたのは、「たくさんの人に広げる」より、まず地元・音戸町の中でしっかりと継承の形を整えることが重要だということです。
音戸町の中で、まず町民が舟唄に誇りをもつようになり、それが徐々に呉市全体にも広がっていく。
そんな形を目指したいと思っています。
荒平:私が感じたのは、「継承者」の定義を広げることの大切さです。
唄う人だけでなく、ワークショップを担う人、SNSで発信してくれる人、そういったいろんな関わり方をする人も継承者として認めていく。そういう発想の転換が必要だと思いました。
今回の活動では、「天仁庵」さんやクルージング会社さんなど、これまで保存会とつながりのなかった方々が、積極的に協力してくれました。
こういった、保存会と若年層の中間にいる、働き世代の方々を巻き込んでいくことも、今後の継承につながると感じています。
あと、子どもたちって、本当に元気いっぱいに唄うんですよ。
その姿が大人に伝わって、大人が舟唄に関心を持つ——。そういう逆方向の継承もあるんじゃないかと。
私自身、保存会に誘われて唄い始めたら、娘も一緒に唄うようになって。子どもと大人、それぞれが影響し合って、互いに巻き込まれていく。そういうサイクルも面白いですよね。
杉崎:私としては、教育委員会との連携もよいのでは、と思っています。
学校の音楽の授業や総合学習に舟唄を取り込むことで、継承の裾野が大きく広がります。
ー「音戸の舟唄」の継承は、長い時間をかけた取り組みになるかと思いますが、今後が楽しみです。今回はありがとうございました。
▶ 音戸の舟唄イベント情報:https://ondo-funauta.com/event/
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あっぱれは、文化財を生かしたコンテンツづくりについて、体制構築からプロデュースまで日本全国で取り組んできました。
特に、私たちが力を入れているのは、「一時的な補助金獲得・コンテンツ造成でなく、きちんと文化財を持続可能なかたちで活用・継承していくための仕組みづくり」です。
「文化財をどう活用し、未来に残していくか」にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。旅行会社・広告代理店といった民間企業様からの補助金事業への連携、自治体・文化財所有者の方などからの相談も歓迎します。
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